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2025.09.17
一度その姿を見れば、忘れることはない。ふっくらとしたキルティング、チェーンストラップ、そして「C」が重なり合うエンブレム。シャネルの「マトラッセ」は、単なるバッグではない。それは、時代と女性の自由を背負った〈文化の象徴〉である。
1955年2月。ココ・シャネルは、当時の常識を覆すバッグを世に送り出した。両手が自由になるショルダーバッグ。これまでクラッチを手で持つことが「淑女の嗜み」とされていた時代に、ストラップを肩にかけて歩くことができるバッグは、まさに革命だった。
そのバッグこそが「2.55(ドゥ・ドゥー・サンクサンク)」。後のマトラッセの原型だ。
“マトラッセ”とはフランス語で「ふっくらと綿を詰めた」という意味。ココ・シャネルは、騎手のジャケットや修道院のステンドグラスからインスピレーションを得て、幾何学的でありながら感情を孕んだデザインを完成させた。
あのキルティングは、どこか懐かしく、あたたかい。だけど、芯の強さもある。まるでシャネル自身の生き様そのもののように。
マトラッセの魅力は、ガラスケースの中にある時よりも、誰かの肩にかかった瞬間に輝きを放つところにある。
若い女性が背負えば、初めての自由を手に入れたかのように。年を重ねた女性が持てば、人生の物語を語るかのように。持つ人によって表情を変える——それが、本当の「名品」の条件なのかもしれない。
現在、マトラッセはラグジュアリーの象徴として、世界中で愛されている。しかし、それだけではない。母から娘へ、祖母から孫へと受け継がれていく存在でもある。時を越えて、想いを繋いでいくバッグ。
たかがバッグ。されど、マトラッセ。
それは女性の“手にした自由”を、今もそっと支えている。